八咫烏シリーズにぞっこんです。
阿部智里氏の小説、シリーズ物でまだ続きがどんどん出るでしょう。出て欲しい。
なんとなく手に取ったのに、いつの間にかその世界に没頭していました。
お前ぇぇぇーー!!と長束彦ばりの声をあげてしまいそうになったことも、涙腺が緩んだことも、思わず吹き出しそうになったことも、ただただ驚愕したことも。
生き生きと描かれる世界が鮮やかで残酷であまりにも現実で。
描かれるのは八咫烏の世界。
人間の世界と同じようで違っていて同じ。
小説の中で世界はしっかりと完成されていて、煌びやかな宮廷も谷間も宮烏も山烏も、それぞれが物語を持っているのだと分かります。作者の手腕の見事さにただ感服しながら読み進めると、そこに待っているのはどんでん返しです。
そう、必ず最後にびっくりさせられるのです。
今回もどんでん返しが来るぞ、と構えながら読んでいても、ラストには必ず思わぬ設定、思わぬ人物に驚かされてばかり。
シリーズの中には、同じ出来事を違う視点から描いたものや時系列が前後しているものもあり、答え合わせをする感覚で物事の結果や人物を知っていて楽しんでいるはずが、最後には必ず驚いているのです。
何よりも物事の切り取り方が見事で、同じ出来事で切り方が違うと変わって見える。
違う視点から描かれると同じ出来事は全く違って見え、こんな意図やこんな思いが隠されていたのかと、驚かされます。
こちらの正義が向こうから見た正義とは違う。そんな当たり前のことが、小説の中だとえらく新鮮に感じます。
一番好きなのは、『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』の中の、「まつばちりて」。
いや外伝かよ、というツッコミはさておいて。
何度読んでもうるっときます。忍熊の愛、松韻の愛。
何もなくても愛されていると信じられる松韻は強くて、地位も名誉も夢もお金もそのすべてを即座に投げ捨てる決心をした忍熊も強いです。
花一つ、 かんざしひとつ、甘い言葉ひとつとしてなかったけれど、それでも確かに、あの娘はこの男に愛されていた。
そして、忘れられない一文があります。
同じく『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』から「ふゆきにおもう」。
冬木は冷徹で、捻くれていて意地悪で、そして何より、愛情深い女だった。
矛盾するようで矛盾しない冬木という人。
雪哉がこの人から生まれたのがなんとなく分かるような、賢さと烈しさを持った人だったという描写が好きです。
近くにいるとしたらつい遠ざけてしまうかもしれないけれど、眩しくて美しい人だなぁと思います。
シリーズ最初は、「烏に単は似合わない」ですが、私はこれは終わり近くの謎解き部分になるまで少し退屈をしてしまいました。(もちろん、知っている人が出てくるので今読むと大変興味深いです。)
だからもしも、そんなに面白くないな、という人が私以外にいるとしたら、先に2巻の「烏は主を選ばない」を読んでみて欲しいです。
同じ出来事を違う視点から見ている、というより同じ時間に違う過ごし方をしている八咫烏を描いている、ので、どちらから読んでも支障はないです。
私はついに既刊は読み終えてしまい、早く次が読みたくてたまりません。
人間とは違うのに人間と変わりなくて、煌びやかな朝廷や暗い谷間で描かれる悲喜こもごもは、美しいはずなんてないのに愛しいです。