ちゅるゆーかの頭の中を晒すブログ

ちゅるゆーかの頭の中

出会わなければよかった人などないと笑います。

ウォルターと戦争

ロシアとウクライナのことが話題になり始めた頃、私は「アンの娘リラ」を読んでいました。(モンゴメリ著・村岡花子訳)
第一次世界大戦が始まった作中の世界が、現代の世界と繋がって、辛くて辛くてしょうがありませんでした。


アンには6人の子どもたちがいて、私はアンは好きだったけれどその子どもたちまで無条件で好きになれた訳ではありませんでした。(アンのように詳細に描写がされなかったからということもあるかもしれません。)
私が好きになれたのは、ウォルター・ブライス。幼い頃のアンと似て、想像力豊かで心優しく、脆さを感じさせる男の子でした。
けれど、好きになればなるほど辛かったです。ウォルターの戦死が、既に作中では仄めかされており、私は失うことの恐怖を感じながら、読みたくないと何度も思いました。



第一次世界大戦が始まり、作中は戦争一色になります。
戦争に反対する者は罵られ、兵として出陣しない男は軽蔑され、貢献しようとしない女は白い目で見られます。
善良な人々が、ただ勝つことを信じ、戦争に反対することは許さない空気を作っていきます。
それに参加しているアン、ギルバート、スーザン。私が好きな人たちが、知っている人たちが、兵士として参加するだけではなく戦争に反対することも許さないのだと、戦時にはこうなるのだと、背筋が寒くなりました。



死の前に訪れる苦痛を恐れて入隊しようとしなかったウォルター・ブライス
入隊しないことで周りから白い目で見られ、嫌がらせを受け、兄が出兵してから詩を書けなくなった穏やかなウォルター。
その彼も、とうとう入隊を決心します。ウォルターが家で過ごす最後の夕方、妹のリラと交わした会話は、電車の中で私を泣かせるのには十分でした。


「さあ、もう暗い話はよそう。何年も先のことに目を向けようよ。(中略)またみんなで幸福になれるときのことをね」
「あたしたち――もととおなじようには――幸福にはなれないわ」
「そう、もととおなじにはね。この戦争に関係した者はだれももととおなじふうな幸福には二度となれないだろうよ。しかし、よりよい幸福だと思うね、リラちゃん――僕らがかちえた幸福だもの。戦争前の僕らは非常に幸福だったね。炉辺荘(イングルサイド)のような家があり、うちの父さんや母さんのような両親があれば幸福にならないわけにはいかないではないか? しかし、あの幸福は人生と愛情の賜物であって、真に僕らのものではなかったのだ――人生が好きなときに取り返してしまえるものだ。僕らが自分の義務として自分の力でかちえた幸福は人生には奪い去ることはできない。そのことが入隊して以来わかったのだよ。取越し苦労をして臆病風に襲われることもときおりあるけれど、僕は五月のあの晩以来幸福なのだよ。」

そして、ウォルターが戦死の前日に書いた手紙。
苦しまずに死ぬことのできたウォルターにほっとしながらも、読むことが辛くて、でも素晴らしいから何度も読んでしまいました。
作中の人物の魂が安らかであれと、こんなに祈ったことはないように思います。

「われわれは明日、頂上を越えることになっている、リラ・マイ・リラ。(中略)
 リラ、君も知っているように、僕は前からものを予感していたね。笛吹きのことを憶えているだろう――いや、もちろん、憶えていまい――(中略)。僕は不思議な幻というか予感というか――なんと呼んでもいいが――を見たのだ。リラ、僕は笛吹きが影のような軍勢をうしろに従えて谷を下るのを見たのだ。(中略)僕はあの瞬間たしかに笛吹きを見たのだ。ところがリラ、昨夜また笛吹きを見たのだよ。(中略)僕は本当に笛吹きを見たのだ――空想ではない――幻影でもない――笛の音をたしかに聞いたもの。すると――笛吹きは消えてしまった。しかし、僕は笛吹きを見たのだ――それがなにを意味するか僕にはわかっていた――僕も笛吹きに従って行った者の中に入っているのだ。
 リラ、笛吹きは明日笛を吹いて『あの世』へ僕を行かせるだろう。僕は確信している。しかもリラ、僕は恐れないのだ。知らせを聞いたとき、このことを思い出してくれたまえ。ここで僕は自分の自由を――あらゆる恐怖からの解放をかちえた。なにものをも恐れることは二度とあるまい――死をも――生をも、もし結局、生きて行くとしたらね。そして二つのうちでは生のほうが難しいと思う――なぜなら、僕には生は二度と美しくならないだろうからね。いつもいやな思い出につきまわとわれていなければならない――そのため僕にとって人生はいつまでも醜い、苦痛にみちたものになるだろう。僕にはとても忘れられない。しかし、生にせよ、死にせよ、僕は恐れていないよ、リラ・マイ・リラ。そしてここへきたことも後悔していない。僕は満足だ。以前、夢みていたような詩を書くことはもうあるまい。しかし、僕は未来の詩人のために――働く人々のために――それから夢想家のためにもカナダを安全なものとするのにつくしたのだ――そうだ、夢想家のためにもだよ――(中略)
君は子供たちにわれわれがそのために闘って死んだ理念を教えるだろう――その理念はそのために死ななければならないと同時に、そのために生きなければならないこと、そうでないとそのために払った犠牲が無駄になるということを子供たちに教えてくれたまえ。これは君の役目の一部だよ、リラ。もし君が――故郷の娘すべてが――そうしてくれるなら、われわれ戻らないものは君たちがわれわれに対して『誓い』を破らなかったことを知るだろう。(中略)
それでは――お休み、われわれは夜明けにいただきを越えるのだ」

ウォルターは入隊してから書いた詩が有名になり、詩人になりたいという夢を叶えたことにもなるのでしょう。
人生から与えられたものではなく、自分が掴みに行った幸せで死んだウォルターを思うと、胸が締め付けられるとはこういう気持ちなのかと思うのです。



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