ちゅるゆーかの頭の中を晒すブログ

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出会わなければよかった人などないと笑います。

【柚木麻子】その手をにぎりたい

私はバブルを知りません。私が生まれた時から今まで、華やかな好景気は訪れていません。聞こえる言葉はリーマンショック、不景気、就職難。
だから、私はバブルが実際にあったことという感じがしなくって、どこか夢物語のようにも感じてしまいます。



けれど、バブルの時代に生きた青子と高級寿司店「すし静」の物語である、柚木麻子さんの『その手をにぎりたい』を読んで、初めてバブル時代が身近に感じられました。

物語の中では、唇が印象的に描写されています。唇を引き締めて、唇を見て、唇で食べ、唇をなめる。印象的な二つの唇が織りなす9年間は、確かに実在したのだと思わされるのです。



柚木麻子さんの小説の素晴らしいと思うところは、主人公を通して小説の中の出来事を見聞きし、体験できるところ。読者は主人公の目になり、耳になり、心になれる。
それは文章のリズムが良いからで、声に出して読むとそのまま話し言葉として通用する文章が、読者を主人公にしているのだと思います。



例えば、寿司職人の顔についての描写はなく、最後でようやく出てきます。けれど、喉仏と手の描写で、彼がどんな人なのか不思議なほどよく分かっているのです。
それに、お寿司についての知識はあまり出てこないのに、お寿司について青子と一緒に詳しくなったつもりでいる自分にもびっくりしました。



「悪いけど、行動を規制されるのは嫌なの」


と自由を愛し、ひたすらに上を求め続ける青子は、自分自身に少し似ている気がします。時代の流れの中で様々な人や言葉や寿司と出会い、成長していく姿は、確かにバブルという時代もそこに生きた人たちもいたのだと思わせてくれます。

「ぼくらはね、あの店で時間を食べているんだよ」


私たちは食べ物を通して時間を食べることができる。その言葉に青子と一緒にはっとしました。
私、お寿司の食べ方も、他の食べ物の食べ方も、変わりそうです。



お寿司が食べたくなる。けれど、心は満腹感で溢れる。

柚木麻子さんの『その手をにぎりたい』を読んだ感想は、これにつきます。